墨荘堂ブログ
ハイリスク妊娠の鍼灸による妊娠管理
ハイリスク妊娠の合併症には様々なものがありますが、今回ご紹介するのは緑内障です。当初は緑内障が確定したということで、緑内障の治療を始めていました。眼圧は13~14、左に若干の視野狭窄があり、目が疲れると頭痛がするという状態でした。
1か月後に妊娠が判明し、眼科医から妊娠が進行すると目の状態が悪くなるかもしれないということで、諸々相談した結果、目の治療と妊娠管理を同時にしていきましょうということになりました。
妊娠管理の具体的方法は、井穴刺絡による循環の維持と三陰交の施灸をメインにして、つわりや逆子はその都度対応しました。つわりは董氏鍼法で2回ほど、逆子はそれほどでもなかったため、1回で解消しています。心配されていた眼の治療は、攢竹の刺絡と眼球灸で対応しました。治療間隔は月1回のペースで8回ほどでした。
以下許可を頂きましたので、ご本人のメールを紹介いたします。
ご報告
予定日をちょうど2週間前倒し、◯月/29朝に2252gの男の子を出産しました。母子共に健康です。◯月/28の23:00頃におしるしがあり、軽い生理痛のようなものが断続的にありました。夜半にかけて痛みが強くなり、間隔も10分を切っていたので、◯月/29早朝5:30に入院しました。
入院時は子宮口3cm、子供の頭はかなり下がっていたそうです。陣痛室で2時間ほど過ごす間に7cm→最大になったかと思われます。
どうしても出したい感じが我慢できず、7:30に分娩台に乗り、7:40に2回程度のいきみで産まれてしまいました。子供が小さめというのもあると思いますが、助産師さんが驚くほどのスピード出産でした。会陰の傷も小さく、体力もそれほど消耗せず、安産だったと思います。
定期的に関先生に診ていただいたお陰だと思います。本当にありがとうございます。最後に眼のことですが、このような経過でしたので、そもそも目に負担もかかってない気がします。視野についても出産前となんら変わりなく保っています。
鍼灸で行う骨格矯正とは
骨格矯正鍼とは大阪の新城三六先生が提唱されている方法で、なんと先生は鍼灸学校1年生の時に校内学術発表会で発表したというのだから驚きです。
患者さんはアロマが精神的疲労回復。カイロは骨格矯正。鍼は肩凝りや腰痛、と目的別に治療を選択しているのかもしれませんが、ほとんどの事が鍼でも可能です。カイロプラクティックや多くの手技療法の治療理論は、「捻れや屈曲している筋肉・腱を調整することによって臓器も整える」ことですから、捻れや屈曲を調整できるツボがあれば同じことができるわけです。
具体的なやり方は、新城先生の『人体惑星試論奥義書』に書かれていますので、ぜひ読んでみてください。
この時の生理学的経過は「知覚神経が脳に刺激を伝達し、脳の姿勢調節作用中枢に働き、異常を感じた脳が、神経伝達経路を使って骨格の歪みを整える。」ということで説明されます。この時使用する二つのツボの内の一つは、変動システムで最も現れることの多い心包・三焦システムに使われているツボとほぼ一緒なので、臓器との関連性も納得できます。
鍼をすると臓器が動き出したとか、血液が巡るようになったなどの感想を言われることが多いですが、本当に正しい場所に打った鍼は3秒で効果が出てきますから、あまり目的を決めつけずにまずは体験してみることをお勧めします。
副鼻腔炎(後鼻漏の初期)の鍼灸治療
声楽家で明日オーディションがあるが、鼻声をなんとかして欲しいと来院。
元々アレルギー性鼻炎があるが、4日前から風邪を引き、熱が出た後、痰や咳がひどく、鼻の奥が重く鼻声が治らない。鼻が詰まっているけれども鼻水は出ない。時々喉の奥の方に流れる感じがするとのことでした。
副鼻腔炎の炎症を取るために顔面の細絡から刺絡をして、董氏鍼方の足駟馬、分金、馬金水、百会から防労への透刺などを追加使用しました。
終了後に声を出してもらうと鼻声はすっかりなくなり、高音がよく響いていました。声楽家は体が楽器であるというのを実感させられました。それと後鼻漏の患者さんの方は初期の症状がこのような感じのことが多いので、早い段階から鍼灸を選択していただくと、治りも早いと思われます。
側頭部と耳のつまり感の鍼灸治療
来院される8か月ほど前に家具に頭をぶつけ、3か月後に歯科で口を開けていたら側頭部と耳のつまり感がひどくなり来院されました。
普段は整体に通っていて、その先生が全ては骨盤の歪みによっているという考え方で、施術してもらうと一時的に良くなるがまた戻ってしまうということ、骨盤以外を見てもらえないということでした。
システムは奇経かと思いましたが心包・三焦で、どう考えても頭をぶつけた時の瘀血のようなものが、耳~頸にあるのが明白でしたので、翳風や聴会などを主に、首の周りから刺絡をした後に心包・三焦システムを調整しました。
結局この一回で側頭部と耳のつまり感は無くなってしまい、これで終了としました。整体と鍼による経絡の疎通は似たようなことをやっているようですが、流れを邪魔する瘀血のようなものは取り除くことが治癒を早めると思います。
難聴とヘルペスの鍼灸治療
静かなところでは聞き取れるが、雑踏の中にいると低音の耳鳴りがしてよく聞こえないということで来院。来院される前数週間はかなり忙しく、「耳鼻科では感音性難聴と診断された。疲れていて夜中に目が覚める。耳は飛行機に乗っている時のように詰まっている感じが抜けない。」ということでした。
診断するとシステムは奇経でしたが、「詰まっている感じが抜けない」ということでしたので、突発性難聴の可能性もあると思い、初診時は聴会などを主に首の周りなどを治療しました。
4日後に「3日ぐらいは良かったが、戻ってしまい前よりも悪い。あと、右の目頭にヘルペスが出来てこめかみから側頭部がピリピリする」ということでした。
診断するとやはりシステムは公孫・後谿、内関・申脈の奇経で変わらずだったので、今回はヘルペスもありましたので、打鍼と、攢竹、翳風の刺絡、そして董氏奇穴として、火硬、花骨1を使いました。加えて脈で気になっていた腎経の腎関、復溜、京門、腎兪にがっちり施灸しました。
治療中から症状は軽減していて、終了後もわずかに残っているということでしたが、あえてこれ以上の刺激は加えずに終了としました。
さらに4日後また来院されましたが、難聴もヘルペスも症状もなくスカッとしているということでしたので、これで治療を終了としました。
好酸球性副鼻腔炎の鍼灸治療
好酸球性副鼻腔炎は、両側の鼻の中に多発性の鼻茸ができ、手術をしてもすぐに再発する難治性の慢性副鼻腔炎と言われています。ステロイドを内服すると軽快する特徴がありますが、ステロイドを長期間服用することは避けた方が良いとされているので、難治という訳です。
はっきりした原因はわかっていませんが、最近になり鼻、気管、肺すべてに関連する全身性の呼吸器疾患であり、鼻だけの病気ではないのではないかと考えらえています。こういう疾患は西洋医学は苦戦することが多いですね。
難治というのはあくまで西洋医学から見た視点での考えですから、伝統医学で難治でないことは十分に考えられます。
【症例】
8年前に手術したが再発し、黄色の膿が出て、匂いが感じられない。X年10月に来院。X年2月の検査では好酸球数が11.1(正常値は0〜6.0)最初は炎症を取るために顔面の細絡から刺絡、他は打鍼で対応。2回目から重い感じが減りスッキリする。5診まで同様の治療。
炎症が落ちついてきたため6診からは打鍼と董氏奇穴の足駟馬、分金、馬金水などを追加使用しています。
好酸球数はX+1年2月以降は6台で推移しているため、症状が現れた時だけ治療しています。
このように難治という名前がつくと暗い気持ちになりますが、伝統医学では必ずしもそうでないものもたくさんありますので、本当の意味でのセカンドオピニオンを探していただきたいと思います。
不妊治療の本当の問題点
先日放送されていたNHKプロフェッショナル仕事の流儀の再放送は、コウノドリのモデルになった産婦人科医の荻田和秀先生の話でしたが、色々と考えさせられることが多いと思いました。
番組の最後に、脳梗塞の妊婦さんから赤ちゃんを帝王切開して出血の危険の中で母子ともに救ったエピソードは、荻田先生の職人技が光っていて、番組の最後を飾るにふさわしいものでした。
放送自体は個人の専門性を取り上げているので、何の問題も無いのですが、こういう昔気質の先生が活躍しなければならない背景には、体外受精ありきの安易な不妊治療が増えているからと思わざるを得ません。番組のケースの方も4年間の不妊治療の後に妊娠したと言っていました。
このような場合、西洋医学では時間がかなり経過しているので、直接の因果関係は無いと考えるのでしょうが、伝統医学ではそもそも受精し難いというところに根本原因があると考えます。体外受精でそこをクリアしてもそのしわ寄せが周産期のリスクを高めているように感じます。
妊娠してからの治療も薬が十分に使えないため苦労があることが示されていましたが、鍼灸では薬を使わないので、問題があまり起きません。つわりや逆子妊娠中の風邪などで鍼灸が効果を上げているのもそのような理由です。もちろん医師の管理下で行うことが前提ですが、ぜひ鍼灸も選択肢の一つとして検討してみてください。
不妊治療の症例はこちら
妊娠管理の方法はこちら(更新しました)
肩凝り解消で思わぬ被害
足のだるさやむくみと鍼灸
睡眠障害の一つでメディアにも取り上げられるようになってきた「むずむず脚症候群」の治療に手の前腕のツボを使って治療し、良い結果が出ていることが報告されたりしています。「むずむず脚症候群」も神経の問題ではなく、血行の問題だと思いますが、むくみや足のだるさは血行(特に足から体幹に戻る方)の経路を確保して、循環不全の原因になっている臓器を調整すれば、早期に回復が望めるものだと思います。
【症例1】
むくみの症例ですが、男性で脚は細いのですが、足首付近から下がパンパンになっている方が来院されました。
そこで、足の三里・陰陵泉・復溜・腎兪と言うツボに鍼を、水分・命門と言うツボに灸をして、足全体に円利鍼で散鍼を行いました。
一ヶ月後にお見えになった時に尋ねてみると、「あの後むくみは無くなった」とのこと。確かに足首は足と同じ細さに戻っていました。
【症例2】
体がだるく、足がむくむ。
この方は三焦システムの異常で、臓器も腎の機能が低下している状態でしたので、陰交・腎関・腎査と言うツボを使い、腰や脚の調整を行い二回ほどで症状がなくなりました。
鍼灸の場合は体に負担をかけずに、余分な水を排出することが出来るので、憶えておいて頂くと良いと思います。
鍼灸から見た偏頭痛の理由
頭痛外来をやっている病院のHPなどを見るとすぐにわかる事は、治療の要点は鑑別の重要性と薬を適切に使う事です。薬を飲んで痛みは止まるが、治った訳ではありません。これは従来から行なわれている糖尿病や高血圧などの治療となんら変わりません。西洋医学では症状を抑えるために薬を飲み続ける必要があり、それで年間何十兆円も使っているのですから。
2014年7月1日に放送された「林修の今でしょ!講座 3時間スペシャル」は、いつもように鍼灸は肩凝り、腰痛というくくりで解説されていました。
まあこのくくりは演出上しょうがない部分もあるので、突っ込まない事にしようと思ったのですが、偏頭痛の説明で、「西洋医学は適切な薬を使えば痛みがすぐ止まる、一方東洋医学では鍼灸や漢方を使って頭痛が起きないような体を作ろうとするので、今の発作を止めたい時には向いていない」という趣旨の発言があり、これには違和感を覚えました。
まず、東洋医学では「頭痛が起きないような体を作ろうとする」というのは漢方の先生の発言としては判らないでもないのですが、鍼灸師が本当にこういう発言をしているのかが妙に気になり、色々調べると、きちんと鍼灸の立場から偏頭痛の原因に言及しているところはほとんど無いことに気付きました。
これでは東洋医学での治療は「頭痛が起きないような体を作る」ことを目指していて、発作中の痛みは取れないと思われてもしょうがないです。
おそらく以下の説明が真の原因と思われるので、私の妄想に過ぎないのか、そうではないのかこれを読んでいる諸兄にご判断頂きたいと思います。
まず、西洋医学で一番有力視されているのは、何らかのきっかけで三叉神経が刺激され、脳血管を拡張する痛み物質が出ることによって頭痛が引き起こされるという説で、トリプタン製剤という、拡張した脳血管を元に戻し、かつ脳の興奮を抑える薬を適切に使うためにも、頭痛の種類をきちんと見極め、くも膜下出血、脳腫瘍、脳出血、髄膜炎、ヘルペスウイルスによる帯状疱疹などを除外するという治療が行なわれます。
これは半分は正しいです。
けれども西洋医学は解剖学の発達でとにかくミクロに原因を追求するようになってしまったため、全体像を見ていないことが多く、偏頭痛の場合も同様です。
まず動脈は心臓というポンプがあるため、血管の配置もあり、あまり邪魔されずに末端(指先や脳など)に血液を送る事が出来ます。
問題は頭部から戻って来る血液で、静脈は末端にポンプがないため、筋肉のポンプ作用を利用して心臓に戻ります。ところが筋肉が過度の疲労やストレスで堅くなってくると十分な循環を確保出来なくなります。
これを頭部で考えればもう明らかでしょう。
頸肩がしまって(凝って)頭の血液量が飽和状態になっているのに加え、さらに血管が拡張すれば、頸肩の筋肉を緩めない限りこの脳の興奮状態が改善するとは思えません。
コーヒーや薬を飲んで一時的に血管を収縮させても、また起こるのはこれが理由です。
ましてや慢性的に薬を飲み続ければ、薬は選択的に頸肩だけに効く訳ではないので、手足など収縮しては困るところが収縮して、全身の循環に問題を起こすことも考えられます。
もうお気づきの方もおられるでしょうが、今までの説明は緊張型頭痛の説明ではありません。簡単に言えば偏頭痛とは緊張型頭痛+血管の拡張と考えれば良い訳です。
これは工藤訓正先生が「脳卒中窒息説」として1956年の『漢方の臨床』3巻5号にすでに発表されていますが、誠に達見であると思います。
頸肩の緊張を取るのは鍼灸の最も得意にするところで、発作中の痛みも全身調整が出来る鍼灸師さんなら、簡単に止める事が出来ます。
【症例】
3日前から頭痛がひどく、今回はロキソニンを飲んでも効きが今ひとつで、場所もいろいろな部分が痛み、肩も非常に凝っているという患者さん。
この方は奇経に異常が出ており、照海、外関と列欠、臨泣で調整し、打鍼で腹部のブロックを取り、攅竹と肩背から刺絡をしました。
終了後にどこか残っていないか伺うと、「治療途中から頭痛がなくなるのがわかりました。」ということで終了としました。