鍼灸から見た偏頭痛の理由

頭痛外来をやっている病院のHPなどを見るとすぐにわかる事は、治療の要点は鑑別の重要性と薬を適切に使う事です。薬を飲んで痛みは止まるが、治った訳ではありません。これは従来から行なわれている糖尿病や高血圧などの治療となんら変わりません。西洋医学では症状を抑えるために薬を飲み続ける必要があり、それで年間何十兆円も使っているのですから。

 2014年7月1日に放送された「林修の今でしょ!講座 3時間スペシャル」は、いつもように鍼灸は肩凝り、腰痛というくくりで解説されていました。
 まあこのくくりは演出上しょうがない部分もあるので、突っ込まない事にしようと思ったのですが、偏頭痛の説明で、「西洋医学は適切な薬を使えば痛みがすぐ止まる、一方東洋医学では鍼灸や漢方を使って頭痛が起きないような体を作ろうとするので、今の発作を止めたい時には向いていない」という趣旨の発言があり、これには違和感を覚えました。

 まず、東洋医学では「頭痛が起きないような体を作ろうとする」というのは漢方の先生の発言としては判らないでもないのですが、鍼灸師が本当にこういう発言をしているのかが妙に気になり、色々調べると、きちんと鍼灸の立場から偏頭痛の原因に言及しているところはほとんど無いことに気付きました。
 これでは東洋医学での治療は「頭痛が起きないような体を作る」ことを目指していて、発作中の痛みは取れないと思われてもしょうがないです。
 おそらく以下の説明が真の原因と思われるので、私の妄想に過ぎないのか、そうではないのかこれを読んでいる諸兄にご判断頂きたいと思います。

 まず、西洋医学で一番有力視されているのは、何らかのきっかけで三叉神経が刺激され、脳血管を拡張する痛み物質が出ることによって頭痛が引き起こされるという説で、トリプタン製剤という、拡張した脳血管を元に戻し、かつ脳の興奮を抑える薬を適切に使うためにも、頭痛の種類をきちんと見極め、くも膜下出血、脳腫瘍、脳出血、髄膜炎、ヘルペスウイルスによる帯状疱疹などを除外するという治療が行なわれます。

 これは半分は正しいです。

 けれども西洋医学は解剖学の発達でとにかくミクロに原因を追求するようになってしまったため、全体像を見ていないことが多く、偏頭痛の場合も同様です。

 まず動脈は心臓というポンプがあるため、血管の配置もあり、あまり邪魔されずに末端(指先や脳など)に血液を送る事が出来ます。
 問題は頭部から戻って来る血液で、静脈は末端にポンプがないため、筋肉のポンプ作用を利用して心臓に戻ります。ところが筋肉が過度の疲労やストレスで堅くなってくると十分な循環を確保出来なくなります。

 これを頭部で考えればもう明らかでしょう。
 頸肩がしまって(凝って)頭の血液量が飽和状態になっているのに加え、さらに血管が拡張すれば、頸肩の筋肉を緩めない限りこの脳の興奮状態が改善するとは思えません。
 コーヒーや薬を飲んで一時的に血管を収縮させても、また起こるのはこれが理由です。
 ましてや慢性的に薬を飲み続ければ、薬は選択的に頸肩だけに効く訳ではないので、手足など収縮しては困るところが収縮して、全身の循環に問題を起こすことも考えられます。

 もうお気づきの方もおられるでしょうが、今までの説明は緊張型頭痛の説明ではありません。簡単に言えば偏頭痛とは緊張型頭痛+血管の拡張と考えれば良い訳です。
 これは工藤訓正先生が「脳卒中窒息説」として1956年の『漢方の臨床』3巻5号にすでに発表されていますが、誠に達見であると思います。

 頸肩の緊張を取るのは鍼灸の最も得意にするところで、発作中の痛みも全身調整が出来る鍼灸師さんなら、簡単に止める事が出来ます。

【症例】

3日前から頭痛がひどく、今回はロキソニンを飲んでも効きが今ひとつで、場所もいろいろな部分が痛み、肩も非常に凝っているという患者さん。

この方は奇経に異常が出ており、照海、外関と列欠、臨泣で調整し、打鍼で腹部のブロックを取り、攅竹と肩背から刺絡をしました。

終了後にどこか残っていないか伺うと、「治療途中から頭痛がなくなるのがわかりました。」ということで終了としました。

 

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