打鍼の道具
いつの時代も道具には妖しい魅力があるらしい。
打鍼は室町時代の禅僧であった無分翁が創始し、無分流の流れをくむ松岡意斎が正親町・後陽成両天皇に仕えて、御薗姓を賜った頃が、政治的にもピークであったようです。
この打鍼中興の祖である御薗意斎という人物は、臨床家というより総合プロデューサー的人物であったようです。弟子の中には高名な禅僧である、沢庵宗彭や江月宗玩がいたり、細川幽斎に仕えていた鍼博士の藤木成定もいました。
また、日本で初めて金鍼や銀鍼を作ったのも意斎であるといわれていて、豊臣秀吉に召し出された銀匠の丹阿弥了賀の弟子である奈良弥左衛門に鍼・槌を作らせて、「弥左衛門鍼」というブランドをプロデュースしています。
このように打鍼は当初から道具立にこだわりがあった訳で、現代でも意斎の呪縛から脱却出来ずにいるような気がしてなりません。その煩悩に支配された状態で使用している道具を、参考までにご紹介しておきます。
まず槌は右の黒檀製のものを普通に使っていて、瀬川商店さんに試行錯誤して作って頂きました。左のものは中に鉛が入っていて、主に深部の邪を刺入して処理する場合に用いています。これも黒檀製で石原克己×青木仙衛コラボ企画 の夢分流打鍼小槌です。こちらは指物師でもある茶人の青木仙衛氏のサイトから購入できます。
道具は必ずしも高価なものである必要は無いと思いますが、打鍼の技術的奥義は振動と音も重要な要素で、そこに近づくためにも黒檀製の槌は重要だろうと思われます。柿渋といい、黒檀といい柿ノ木科のものは伝統工芸では良い仕事をしていますね。
次は鍼です。右側の鍉鍼(2本セットで龍睡)はチタン製(これは刺しません)で、正和堂さんから購入できます。右から3本目は銀製(これも刺しません)で、左の圓利鍼(瘀血を消散させるにはこちらが必要で、刺入します)は覆面鍼師S商店さんのものである。
瀬川商店さんもS商店さんもネット経由では注文が出来ないので、興味を持たれた方は、九鍼研究会の事務局に問い合わせて下さい。
まあ道具に関してはあくまで参考の為にご紹介するだけで、自分で愛着の出るものを選んでいただくのが一番かと思います。