むちうち症の鍼灸治療

伝統医学では人間の体に十二本の経絡があって、そこに流れている気が循環していれば、病気にならないと古の人たちは考えていました。しかし様々な原因でその流れが堰き止められてしまうと、溝の中の泥のように止めているものを排除する必要が出てきます。

 そこで目的別に最も効果的にいらないものを排除して、流れを回復するための道具を考え出しました。それが鍼灸の最も古い古典である『黄帝内経』に書かれている九鍼です。

鍼経摘英集九鍼図

 九鍼はその後中国でも全てを使うことは稀になり、日本でも江戸時代には三種類くらいあれば十分と書かれるようになり、形や使用法も曖昧になってきてしまいました。近年の韓国ドラマでも間違った使われ方がされていて、笑ってしまいましたが。

 私も所属している東京九鍼研究会は、これらの鍼を歴史の中から掘り起こして、臨床に使っているグループなのですが、以下にその代表的な症例を上げてみたいと思います。

 2ヶ月前にタクシーと接触事故によってむちうち症と診断され、整形外科や整体に通っていたが、深部が残っていて頸は左右の可動域に制限があり、下を向くと痛む。それに伴い後頭部に頭痛がするという患者さんでした。この方は敏感な体質の方だったので、2回ほどは奇経の調整などで様子を見ていました。

 毎回施述が終わる時には愁訴は無くなっていて、当初あった背中の痛みも無くなったのですが、頸の可動域減少と頭痛が時々あるということでした。そこで肩に鋒鍼(三稜鍼)で刺絡を加えたところ、三回で全ての愁訴がなくなりました。

 この方ような敏感な方でも局所的にいらないものを排除する場合は、普通の鍼(毫鍼)よりも刺激の強い方法でもなんら問題ありませんし、相手に許容量以上の刺激を与えて、体調を悪くしてしまうこともありません。『黄帝内経』に書かれている「鋒鍼(三稜鍼)で刺絡が手技の補瀉を超越した概念だ」ということは、そのような意味なのです。

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