全頭脱毛の鍼灸治療

今回は最初に来院されたときの状態が、頭髪は全くない状態だった症例についてお話します。

2人とも頭部の皮膚も触ってみるとつるつるしていて、毛根も全く見当たらない状態でした。また、また頭だけでなく眉毛や体の他の部分にも毛がない状態でした。

伝統医学では、元々体のパーツと臓器の関係が設定されていて、古代中国医学の論文集である『素問』の六節臓象論篇には「腎の華は髪にあり」という記載があります。これは腎の持っているエネルギーの盛衰と頭髪の成長・脱落が関係していることを示唆しています。

伝統医学ではこのような考えをもとにどのように治療するかを決定していきます。また、「髪は血の余となす」ともいうため、蔵血機能を有している肝も同時に治療することにしました。

肝腎要というように元々肝と腎は密接な関係にあり、治療上でも肝と腎を整えて行くことは意味のあることなのです。

Aさんは2年前から円形脱毛が始まり、8ヶ月前より全脱毛になってしまったという経過です。そこで今回は肝兪、命門というツボにお灸をして、肝・腎のエネルギーを高めることにしました。

これだけでは少し足りないので、首・肩の凝りをとって頭部の循環を良くし、頭部と眉毛の部分を鑱鍼(ざんしん)で刺激することにしました。さらに肝兪、志室は自宅でお灸をしてもらうようにし、頭頂部の百会というツボにもお灸をしました。

鑱鍼というのは九鍼と呼ばれる昔から伝わる九種類の鍼の一つで、普通の鍼と違い刺さずに皮膚を擦るように使います。Aさんは2回目で髭と眉毛が出始め、体の冷えがとれてきたということで4回目には1mm程度の頭髪が全体に広がってきました。1mm程度になるとあとはどんどん戻ってきます。

Bさんは幼いときからアトピーがあり、2005年に悪化して漢方や鍼をしていましたが2008年に全頭脱毛になってしまったという経過の患者さんです。

この方は肝兪、命門の力が非常に弱く、治療開始から7回目まではあまり変化がありませんでした。そこで8回目から頭部の刺絡を加えたところ、9回目で初めて眉毛が生えてきてしばらくそのままの状態が続いていましたが、17回目で眉毛の部分が広がって右の頭頂部にも発毛がみられ、18回目で顔に産毛が出始め、1mm程度の頭髪も全体に広がってきました。部分的に残った場合は、その部分にだけ刺絡+知熱灸+鑱鍼という形で脱毛部の範囲を狭めます。

 AさんもBさんも出始めたのは眉毛からというのが印象的でした。Aさんの場合は鑱鍼で刺激していると、頭部全体がすぐに発赤してくるので反応がいいなと感じましたし、数回の治療で発毛してきたのもそのせいかと思われます。

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